はじめに
音楽アプリが好みの曲を提案したり、カラオケで次に歌いやすい曲が出てきたりするのは、機械学習が「曲の特徴」や「人の反応」を手がかりに判断しているからです。最近は、聴くだけでなく、感情や対話、表情までつないで“体験”をつくる技術も増えています。
本技術レポートでは、日本の特許公報4,657件(2005〜2025年、日本公開特許公報)を対象としたRadar Tech Intelligenceの解析結果にもとづき、機械学習における楽曲に関連した技術の全体像を俯瞰します。
全体俯瞰

図1:機械学習における楽曲関連技術の全体俯瞰
図1は機械学習における楽曲関連技術の全体像を表した俯瞰図です。この俯瞰図では、特許の内容が近いもの同士をマップ上で近くに配置し、特許が密集している箇所を主要な技術領域として示しています。
特徴語の上位には、「サーバー」「送信」「受信」「検出」「配信」「データベース」「id」「ボタン」「リスト」「映像」「演奏」「購入」「アーティスト」「動画」「cpu」「オーディオ」「コマンド」「ジャンル」「メニュー」「タイトル」などが挙げられます。サーバー/送受信/配信/データベースが並ぶことから、楽曲や利用履歴などを大規模に管理し、ネットワーク越しに届ける“基盤”が長く重要だったことが分かります。一方で、映像・動画・オーディオの出現は、音だけに限らず視覚情報も合わせた扱いが広がっていることを示唆します。また、ボタン/メニュー/リストは、推薦や検索の結果を人が選びやすくするUI設計が技術テーマに含まれることを表しています。
俯瞰図上では、楽曲データの検索や楽曲データに付随するアーティスト名やジャンル情報の分類・管理にあたる【楽曲データ ,アーティスト名 ,ジャンル】領域(793件)が中心付近で大きな領域として存在しています。その他、機械学習を用いたロボットの感情認識および表情生成に関する【感情 ,ロボット ,表情】などのも主要な技術として見えました。中心から離れた密集領域として楽曲の選択や操作を担うユーザインタフェース設計に関する【メニュー ,タイトル ,フィールド】なども見られます。
主要プレイヤー
出願件数の多いプレイヤーは、ソニー(344件)、クゥアルコム(205件)、トムソンライセンシング(166件)、ヤマハ(157件)、ソフトバンクグループ(137件)で、次いでブラザー(119件)、アップル(101件)、第一興商(93件)、エクシング(88件)、シャープ(84件)などが続きます。
業界別にみると、エレクトロニクス系(ソニー、シャープ)は長期にわたり出願が見られる一方、直近は低調な企業もあります。音楽・エンタメ系(ヤマハ、第一興商、エクシング)は、楽譜解析や分類・推薦など音楽サービスに近い領域での活動が示されています。通信・IT系(ソフトバンクグループ、KDDI、NEC)は、近年の出願集中や安定推移が見られ、特にソフトバンクは直近年に集中して出願しています。また、アップルは直近の出願比率が大きく、近年の注力度の高まりが示されています。
時系列トレンドとキーワード
時系列の解析からは、2005〜2009年は【楽曲データ ,アーティスト名 ,ジャンル】領域に研究が集中し、楽曲データやジャンル分類など基盤技術が盛んだった一方、2010〜2014年には【メニュー ,タイトル ,フィールド】が増加してUIやコンテンツ管理の応用が広がっています。
2015〜2019年にかけては【感情 ,ロボット ,表情】領域が増加し、感情認識や表情制御など、人と機械のインタラクション強化への関心が高まったとされています。さらに2020〜2025年では【感情 ,ロボット ,表情】の活性化が続く一方、【楽曲データ ,アーティスト名 ,ジャンル】は減少傾向が示され、位置情報に関する領域の存在感が増していると述べられています。
総じて、初期は特徴抽出・分類・推薦と、データ管理・配信などインフラ整備が中心で、中盤はコンテンツ管理と推薦が活発化したが成熟後に縮小、近年は感情認識や非言語コミュニケーション、表情生成を含むインタラクションと深層学習による体験創出へ移行したと言えます。また、メディア・ゲーム領域では強化学習やプレイヤーモデリングなどの伸長が見られています。
まとめ
機械学習における楽曲に関連した技術は「サーバー/配信/データベース」を軸にした楽曲情報の管理・提供を基盤として発展してきました。主要プレイヤーはエレクトロニクス、音楽・エンタメ、通信・IT、外資系大手まで幅広く、直近の出願比率や増減には差が見られます。
時系列トレンドの観点では、基盤の整備と楽曲推薦が中心の過去から、感情認識・対話・表情生成など“体験”をつくる方向へ重心が移っていることが分かります。音楽を「聴く/探す」だけでなく、「その場の状態に合わせて変わる」方向へ技術が進んでいる点は、皆さんの音楽に求めるニーズにも合致しているのではないでしょうか。