はじめに
私たちが脱炭素社会を目指すうえで不可欠な水素エネルギーは、単なるクリーン燃料にとどまらず、製造や利用過程における二酸化炭素排出の削減や分離・回収技術として継続的な進化を遂げています。水蒸気改質やガス化装置による水素製造プロセスの高効率化だけでなく、電気分解によるクリーンな水素生成、高炉工程での排出抑制など、環境負荷低減に向けた高度なシステム開発が進められています。
本技術レポートでは、日本の特許公報1,509件(2005〜2025年、日本公開特許公報)を対象としたRadar Tech Intelligenceの解析結果にもとづき、水素エネルギー分野における二酸化炭素に関連する技術の全体像を俯瞰します。
全体俯瞰

図1:水素エネルギー分野における二酸化炭素関連技術の全体俯瞰
図1は水素エネルギー分野における二酸化炭素関連技術の全体像を表した俯瞰図です。この俯瞰図では、特許の内容が近いもの同士をマップ上で近くに配置し、特許が密集している箇所を主要な技術領域として示しています。
特徴語の上位には、「触媒」「燃料」「改質」「電池」「分離」「金属」「電極」「水蒸気」「一酸化炭素」などが挙げられます。これらの語が示すように、従来の改質プロセスでの二酸化炭素低減だけでなく、CO2分離回収技術、電気分解プロセスに用いられる電極材料の開発が中心となっていることが読み取れます。
俯瞰図上では、燃料電池システムや改質ガスの組成制御を中心とする【改質ガス , 改質器 , 燃料電池】や水の電気分解やCO2還元を目指す【カソード , アノード , 電気分解】領域が中心付近に大きな領域として存在しています。その他、鉄鋼製造過程のCO2削減を研究する【高炉 , 鉄鉱石 , コークス】、バイオマス由来の燃料を用いた【バイオマス , ガス化 , 一酸化炭素】なども主要な技術として見られます。
主要プレイヤー
特許出願の観点では、国内の大手鉄鋼・エネルギー・電機メーカーが本分野を牽引していることが分かります。神戸製鋼所(31件)や出光興産(30件)が出願を主導し、神戸製鋼所は改質関連技術や高炉を中心とした製造工程での二酸化炭素制御、出光興産は改質プロセスや燃料電池の技術開発に注力しています。次いで東芝(25件)が燃料電池関連や電気化学的手法の領域を主導し、安定的な出願を見せています。
一方で大阪瓦斯(23件)や東京エレクトロン(22件)は、それぞれ改質・燃料電池や基板・プラズマ技術に重点を置いていますが、分野によっては過去に比べ新規出願が減少傾向にあるプレイヤーも存在します。また、直近では中国石油化工股ふん有限公司などの海外企業や、本田技研工業といった自動車メーカーの参入も確認されており、業界の裾野の広がりとグローバルな開発競争が顕著になっています。
時系列トレンドとキーワード
時系列の解析からは、二酸化炭素関連技術が燃料電池の基礎的プロセス中心の段階から、CO2の分離・回収や排出抑制、電気分解などの要素技術へと移行してきた様子が確認されます。
かつて(2005〜2009年)は「燃料」「改質」「電池」といった水素製造や燃料電池システムに関する研究が中心でしたが、近年(2020〜2025年)は「分離」「出口」「電極」「メタン」といった二酸化炭素排出削減や資源循環の技術へ関心が移っています。また、近年では「反応器」や「電気分解」といった特徴語が台頭しており、カーボンニュートラル実現に向けた要素技術や細分化されたプロセスの高度化へ関心が拡大していることも特徴です。
まとめ
水素エネルギー分野における二酸化炭素関連技術は、改質・燃料電池を中心とした装置志向の従来技術から、カーボンリサイクルや電気分解による二酸化炭素の排出抑制・分離技術へと転換しています。 全体として、神戸製鋼所や出光興産をはじめとする大手鉄鋼・エネルギー企業が技術開発を牽引しており、電解装置やガス分離膜などによる環境対応技術が進展しています。
今後は、製品化に迫ったこれら基盤技術のコスト圧縮と量産体制の確立を活かした実用化や、持続可能なエネルギー社会の実現のための総合的な技術革新が継続していくことが期待されます。